肝臓疾患解説(1)原発性胆汁性胆管炎

原発性胆汁性胆管炎とは?
 原発性胆汁性胆管炎は、50、60代の女性に多い、胆汁が鬱滞する自己免疫性疾患です。タイプとしては(1)無症候性(症状無し)、(2)かゆみの出るもの、(3)かゆみと黄疸が出るもの、の3つがありますが、初診で発見される患者の7割は無症候性です。
 この病気は、肝臓内の細い胆管(肝臓から十二指腸へ胆汁を送る管)の細胞に慢性的な炎症が起こるものです。B型・C型肝炎などのようなウイルス感染によるものではなく、自分の臓器を敵とみなして攻撃する自己免疫反応によって発症します。肝機能マーカーである γ-GTP や ALP の値が上昇します。ほかに「自己免疫性肝炎」という病気もありますが、こちらは肝細胞に炎症が起こり、AST(GOT)、ALT(GPT)の値が上昇する疾患です。どちらも厚生労働省が指定する特定疾患(難病)に含まれます。

黄疸が出るまで進行すると危険に
 うまく病状をコントロールすれば、5年生存率97%、10年生存率90%と予後が良く、日常生活にもそう支障がない病気です。しかし、無症候性の患者はつい薬を飲み忘れ、いつのまにか症候性に移行している例も少なくありません。黄疸が出ると、5年生存率は54%、10年生存率は35%と厳しくなります。
肝組織の変性は、以下の4期に分けられます。
 T期=胆管に炎症があり、その周囲にリンパ球などが集まっている
 U期=胆管の変性が始まり、いくつかは細くなっている
 V期=胆管が消失して、肝組織の構造が変化し線維化している
 W期=肝硬変が生じる
かゆみはT期から自覚することもあります。W期になると黄疸が出現します。

しつこいかゆみを感じたら精密検査を
 原発性胆汁性胆管炎による「かゆみ」は、血管に漏れ出た皮膚に染み出て、末梢神経が刺激されて引き起こしたものです。さらに肝機能が低下すると、汚れた血液の行き場がなくなり、食道や胃に静脈瘤(血のコブ)を形成。この静脈瘤が破裂すると大量の吐血を引き起こします。ここまで進行すると非常に危険で、特に若い人では生体肝移植を選択する場合もあります。

薬物療法で改善、かゆみ対策も重要
 昔からある「熊の胆(い)」に似せた化学合成剤、ウルソデオキシコール酸(ウルソ)を投与することで、検査数値をコントロールすることができます。この薬剤は胆汁の鬱滞を改善するほか、肝臓の血流量を増やしたり、肝細胞を保護したりする作用もあります。かゆみ対策には抗ヒスタミン薬を使いますが、かゆみが強い場合は別のタイプの薬を使う場合もあります。また、私達は合成麻薬を用いて頑固なかゆみを抑える新タイプの内服薬を企業と共同で開発、臨床試験中です。