自己免疫性肝炎のQ&A

 自己免疫性肝炎(Autoimmune hepatitis: AIH)について、この病気と診断された方々やそのご家族に向けて、Q&Aを作成しました。病気への理解を深め、漠然とした不安を少しでも軽くするために、この記事を掲載します。これは当院独自のものです。改訂をしながらより良いものにしたいと思っています。(初版 2020.2)

目次
1. 病名について
2. この病気の人はどの位いますか?
3. 病気発見のきっかけは?
4. 病気の原因は分かっていますか?
5. 全身性エリテマトーデス(SLE)との相違は?
6. 各種の自己抗体
7. 血液検査の特徴は?
8. 合併症にはどんなものがありますか?
9. 内科治療
10. アザチオプリン治療について
11. 予後
12. 日常での注意点は?
13. 難病指定について
14. 患者さん向けの参考になるサイトは?


Q1 病名について
1950年代、豪州のローヤル・メルボルン病院(Royal Melbourne Hospital)のイアン・マッケー(Mackay I)教授は、鋭い臨床例の観察から、若年女性で黄疸を伴う重症肝炎例で、副腎皮質ホルモン剤が著効し、LE細胞現象が陽性の一疾患群を見出し、「ルポイド肝炎」と命名しました。彼らは後に、LE細胞現象が陽性の期間が一過性であったことから、この疾患を「自己免疫性肝炎: autoimmune hepatitis(AIH)」と改名、疾患概念を確立し、現在に至っています。

Q2 この病気の人はどの位いますか?
厚労省の研究班が2004年に行った調査では、全国に9,000人程度(人口1万人当たり9人)の患者さんがいることが想定されましたが、2018年の再調査では全国に30,000人(人口1万人当たり24人)と推定されています。調査法や推定法の相違はあるものの、患者数の増加がみられます。本邦では、小児例の報告もありますが、中年以降の女性に好発し、男女比は1:7とされています。

Q3 病気発見のきっかけは?
肝障害があり、その原因追及の際、A型、B型、C型などの肝炎ウイルス感染、アルコール、薬剤、代謝異常、脂肪肝など既知の原因が除外され、自己抗体の検出などから発見されることが多いです。とくに、原因が不明の黄疸、肝不全など重篤な肝疾患では、本疾患の存在を念頭に置くことが必要です。また、無症状であっても、甲状腺機能異常、シェーグレン症候群、リウマチなどの他の自己免疫疾患や膠原病などの経過中に肝障害を併発した場合も、本疾患を疑うことがあります。

Q4 病気の原因は分かっていますか?
他の全身性や局所の膠原病と同様に、世界中で日々原因の研究がおこなわれていますが、AIHでも真の原因は未だ不明の域を出ていません。但し、血中に多彩な自己抗体が検出され、前述のように、臨床的に甲状腺機能異常、シェーグレン症候群、リウマチなどの他の自己免疫疾患を合併することが少なくないこと、さらに、後述のように、副腎皮質ホルモン剤が著効を示すことから、何らかの自己疫異常がこの疾患の原因に大きくかかわっていると推察されています。免疫遺伝学的には、ヒトの主要組織適合遺伝子複合体(HLA)との関連性が論じられ、本邦例ではHLA-DR4が有意に高いとの報告があります。

Q5 全身性エリテマトーデス(SLE)との相違は?
全身性の自己免疫異常の代表疾患として、全身性エリテマトーデス(SLE)があげられます。 SLEは皮膚病変の他、蛋白尿や腎疾患、心血管疾患、呼吸器疾患の併発がみられますが、肝疾患の合併は稀です。自己抗体としてANAが検出され、治療として副腎皮質ホルモン剤が使用されます。AIHでもANAが検出され、治療として副腎皮質ホルモン剤が使用されることは全く似ています。しかしながら、SLEでは慢性の肝障害を併発することは稀であり、他方、AIH自体では、皮膚病変の他、蛋白尿や腎疾患、心血管疾患、呼吸器疾患の併発することは稀です。SLEが全身性の自己免疫疾患であるのに対して、AIHは肝の臓器特異的な自己免疫疾患です。ただし、後述するように、ANAの力価や染色パターンにはAIHとSLEで相違は見出されておらず、自己免疫異常に基づく病態であることは一致していますので、SLEの病因が解明されればAIHについても病因や治療の進歩に大きく貢献するのではと期待されます。

Q6 各種の自己抗体
AIHでは抗核抗体(ANA)をはじめ、多種多様な自己抗体が血中に検出されます。抗核抗体とは、真核細胞の核内に含まれる様々な抗原性物質に対する抗体群の総称です。前述のSLEをはじめとする膠原病各疾患の患者血清中に最も高頻度に検出される自己抗体で、AIHでもほとんどの患者さんに検出されます。また、健常者にも数%の方に検出されることから、ANAはAIHに特徴付ける自己抗体ではありません。しかし、肝障害があって、ANAが高い値(高力価)で検出された場合、この疾患を強く疑うことになります。一方、確定診断され、後述の免疫抑制剤の治療によって、この力価の低下がみられます。その他、抗平滑筋抗体や抗肝腎マイクロゾーム抗体などが検出されます。

Q7 血液検査の特徴は?
肝細胞の逸脱酵素であることはAST (GOT), ALT (GPT)の上昇、黄疸を示す総ビリルビン値の上昇がみられます。前述のANAやASMAをはじめとする各種自己抗体が検出され、IgGクラスの免疫グロブリン(IgG)値が著増し、γグロブリンが高値となり、その結果、総蛋白も高値となります。

Q8 合併症にはどんなものがありますか?
AIHの真の原因は未だ分かっていませんが、自己免疫異常が強く関連する肝疾患であることから、他の自己免疫疾患を合併することが少なくありません。
関節リウマチは頻度の高い合併疾患であり、甲状腺機能亢進症(バセドー病)、低下症(橋本病)、シェーグレン症候群なども注意すべき合併症です。稀ながら、同じ自己免疫性肝疾患である原発性胆汁性胆管炎(PBC)を合併することもあります。

Q9 内科治療
一般的にAIHと診断されたら、副腎皮質ホルモン剤(PSL)を投与します。PSLは自己免疫反応の大元を遮断する目的で、初期量は体重当たり0.6mg以上を目安としますので、体重が60-70Kgの方は1日30−40mgと設定し、以降ゆっくり減量し、長期的に使用します。PSLをいつまで服用するかという議論がありますが、個人的には中断することなくほぼ一生使用するのが良いと思います。
初診時から、意識障害を伴い、黄疸、凝固障害などの臨床像を呈する劇症肝炎型のAIHでは、PSLの大量投与に加え、肝不全治療を併用します。また、小児例では、PSL長期使用による低身長が危惧されるので、初期に大量投与を行い速やかに減量する投与法(パルス療法)が推奨されています。

Q10 アザチオプリン治療について
アザチオプリン(イムラン)は、腎・肝・心・肺移植における拒絶反応の抑制、ステロイド依存性のクローン病や潰瘍性大腸炎の寛解維持、および治療抵抗性のリウマチ性疾患(漸新世血管炎、SLE、多発性筋炎、強皮症、難治性リウマチ疾患など)に使用され、いずれも副腎皮質ホルモン剤と併用されることが多い。自己免疫性肝炎に対して、欧米では以前からPSLによる副作用や総量を軽減する目的で本剤を使用することが推奨されていました。本邦でもようやく本疾患に対しての使用が認可され、通常は1日50mg錠を1錠服用します。医院でも何人かの方に投与して良い反応を得ており、今後、本剤の位置付けがさらに明確にされると思います。

Q11 予後
この病気は一般に、早期発見し、適切な治療が継続されれば、生命予後は良好です。但し、前述の劇症型や早期進展例では予後不良です。肝硬変例では、肝性脳症、食道・胃静脈瘤からの消化管出血、黄疸などがみられる非代償期には入院加療を要します。肝移植を検討する場合がありますが、わが国では限られています。
なお、臨床兆候、AST, ALT, 総ビリルビン値、プロトロンビン時間などの臨床検査所見や画像検査所見から、軽症、中等度、重症の3つの重症度分類が用いられています(Q14の項参照)。

Q12 日常での注意点は?
正しい服薬が最も重要です。PSLは副作用を警戒するあまり、自己中断や不規則な服用をされる場合があり、薬剤の効果判定に影響を及ぼすことがあります。PSL使用中に症状の変化を自覚した場合は主治医によく相談してください。
PSLによって食欲が増強し、その結果、体重の増加による肥満、脂質異常症や糖尿病の発症にも注意が必要で、食事の摂取量や体重の管理が求められます。PSLが維持量となったら、運動など、とくに通常の日常生活に支障はありません。また、中年以降の女性では、骨粗鬆症になり易く、PSL投与によって助長される恐れもありますので、定期的なチェックも必要になります。その他、満月様顔貌、胃・十二指腸潰瘍や感染症になり易い、などの副作用もみられます。

Q13 難病指定について
平成27年1月から法律によって難病対策が規定されました。AIHもこの難病の1つに指定されていますが、疾患の患者さんすべてが医療費助成を受けられるわけではありません。各疾患それぞれに「重症度分類」が定められており、この重症度分類によって中等症・重症と診断された患者さんのみが医療費助成を受けられ、軽症と診断された患者さんは、原則として医療費助成の対象にはなりません。
医療費助成の内容については、各自治体や医療保険の種類などによっても異なりますので、各医療機関や保健所などでよく説明を受けてください。

Q14 患者さん向けの参考になるサイトは?
患者さん向けのサイトを以下に記載しておきます。
難病情報センター  自己免疫性肝炎 (指定難病95)
患者さん・ご家族のための自己免疫性肝炎(AIH)ガイドブック2013