原発性胆汁性胆管炎のQ&A

 原発性胆汁性胆管炎 (Primary biliary cholangitis: PBC) について、この病気と診断された方々やそのご家族に向けて、Q&Aを作成しました。病気への理解を深め、漠然とした不安を少しでも軽くするために、この記事を掲載します。これは当院独自のものです。改訂をしながらより良いものにしたいと思っています。(初版 2019.8)

目次
1. 病名について
2. この病気の人はどの位いますか?
3. 病気発見のきっかけは?
4. 病気の原因は分かっていますか?
5. 肝臓内で何が起きている?
6. 抗ミトコンドリア抗体とは?
7. 血液検査の特徴は?
8. 合併症にはどんなものがありますか?
9. 内科治療
10. なぜ治療にステロイド剤は使用しない?
11. 痒みの原因と治療
12. 予後
13. 肝移植について
14. 日常での注意点は?
15. 難病指定について
16. 患者さん向けの参考になるサイトは?


Q1 病名について
以前からこの疾患は、「原発性胆汁性肝硬変」と命名され、これが長い間、汎用されていました。しかし、多くの患者さんが、肝硬変に進展していないにもかかわらず、この病名が診断書に記載されているため、書類上で健康保険に入れなかったり、入職を拒否されたりすることがあって、世界中から病名変更の要請が高まりました。
日本でも2016年に現在の「原発性胆汁性胆管炎」へと変更され、問題が軽減、解消されています。英語ではPrimary biliary cholangitisで、略語は従来と同じPBCです。

Q2 この病気の人はどの位いますか?
2018年に厚労省研究班が行った全国疫学調査によると、全国のPBC患者数は推定約37,000名、人口10万人当たりの有病率は33.8で、男:女は1:4.3でした。好発年齢は女性50歳代、男性60歳代です。

Q3 病気発見のきっかけは?
患者さんの多くは症状がなく、検診、人間ドックなどで肝機能異常を指摘され、精査のため受診され、この疾患の診断に至ります。1例をあげると、検診で、AL-P, γ-GTPの上昇があり、自分は飲酒をしないにもかかわらず、「アルコールを控えるように」と指示され、納得がゆかずに来院され、あらたに発見される場合がありました。
また、リウマチ疾患、甲状腺機能異常や高コレステロール血症(特にLDL-C)の経過や治療中に発見されることもあります。本邦での最近の集計でも、PBCの患者さんの約8割は肝疾患に基づく症状、例えば、黄疸やかゆみ、倦怠感などの自覚症状のない方です。 一方、少数ながら、黄疸や腹水、肝不全といった入院を要する肝障害が出現し、他の原因が否定され、新たにPBCと診断されることもあります。

Q4 病気の原因は分かっていますか?
慢性の肝臓病の原因には、B型、C型肝炎ウイルスの持続的な感染によるウイルス性、アルコール多飲によるアルコール性、ある種の薬剤による薬剤性、肥満や糖尿病を合併する代謝性、などがありますが、免疫異常に基づくと考えられる自己免疫性と呼ばれる一群があり、PBCも自己免疫性の肝疾患の1つです。PBCの真の原因は、世界中の研究者達が追及しているにもかかわらず、未だ不明です。
現在では、後述するように、血液検査で抗ミトコンドリア抗体というこの病気を特徴づける自己抗体が検出されたり、自己免疫病であるリウマチ、甲状腺疾患などの合併が少なくないことから、PBCも何らかの自己免疫異常による肝疾患と推察されています。なお、母親がPBCなので、その子供や兄弟、姉妹も必ずPBCになるわけではありません。しかし、PBCでは、いくつかの共通する遺伝子異常がみつかっています。

Q5 肝臓内で何が起きている?
PBCは肝内の細い胆管周囲の上皮細胞を標的とした疾患です。初期にはその周囲にリンパ球を主体にした細胞が浸潤し免疫反応を賦活します。そのため、肝内の細い胆管が変形したり、消失したりします。これらの変化が長年続くと、肝線維が増生し、さらに肝硬変まで至ることがあります。中には、肝細胞の炎症を伴うなど、病変は多様性をみます。肝臓の病理は肝生検によって詳細が情報を得ることができます。

Q6 抗ミトコンドリア抗体とは?
自己免疫疾患では血液中に多彩な自己抗体が検出されますが、PBCでも抗ミトコンドリア抗(AMA)が高率に検出されます。AMAはPBC以外の疾患ではほとんど検出されないことから、PBCを特徴づける免疫現象です。ミトコンドリアはヒトの細胞内にあるもので、肝臓由来のものではありません。分子生物学的手法によって、AMAに対する主要な自己抗原が、ピルビン酸脱水素酵素のE2成分であることが判明しています。AMAの検査法には、げっ歯目のミトコンドリアが豊富な心、腎組織を抗原とした蛍光抗体法と、ピルビン酸脱水素酵素のE2成分の組み換えタンパクを抗原とした酵素抗体法の2種類が汎用されています。前者は、血清の希釈倍数で、後者は数値で表示されます。
なぜPBCでは高率にAMAが検出されるのでしょうか?この問題の詳細な回答は未だ出ていませんが、AMA産生のメカニズムが解明されれば、PBC発症の原因の解明にも役立つ可能性もあります。少なくとも高い値のAMAが他の自己免疫疾患で検出されることはほとんどないので、PBCの病因に深く関連していると考える研究者は少なくありません。

Q7 血液検査の特徴は?
PBCは肝内の細い胆管周囲の上皮細胞を標的とした疾患です。前述したように、進行すると、胆管が破壊され、消失することがあります。すべての肝内胆管が同時に障害をうけることは少なく、したがって、同じステージであっても多様性があります。
 初期の変化として、アルカリ・フォスファターゼ(Al-P)やガンマ-GTP(γ-GTP)などの胆汁うっ滞を示す酵素の上昇が特徴の第一です。Al-Pは、胆石、胆道がんなどの胆道系の病気や薬剤による肝障害、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝癌などの肝臓系の病気、さらに骨腫瘍、骨軟化症、潰瘍性大腸炎、甲状腺機能亢進症などでも上昇します。また、γ-GTPも上記の肝胆道系の病気やアルコール多飲で上昇することが知られていますので、鑑別することが必要です。進行したPBCでは総ビリルビン値が上昇します。
 免疫的検査では、前述のAMAや抗核抗体、とくにセントロメア型が検出されることがあり、IgM値も上昇します。その他、総コレステロールやLDLコレステロール値が高いこともあります。

Q8 合併症にはどんなものがありますか?
PBCは他の自己免疫疾患を合併することが少なくありません。局所的には、橋本病などの甲状腺疾患、口腔内乾燥やドライアイがみられるシェーグレン症候群、全身的には、リウマチ疾患などが合併症としてみられます。また、後述するように、骨粗しょう症も高率に合併することから、自覚症状や検査によって、早期診断のうえ対応することが必要です。

Q9 内科治療
PBCと診断された場合、最初に用いる薬はウルソデオキシコール酸(UDCA)です。この薬は比較的歴史が古く、日本人が発見し、成分分析したものです。通常1日600mg(6錠)を服用します。それでも、Al-Pやγ-GTPの落ちが不良な場合は、ベザフィブラートを併用します。多くの場合、Al-Pやγ-GTP値の改善が期待されますが、AMAは陰性化しません。

Q10 なぜ治療にステロイド剤は使用しない?
これまで述べてきたように、PBCは何らかの自己免疫異常を基礎にした肝疾患です。
自己免疫疾患の多くは、副腎皮質ステロイドホルモンに著効し、反対に、このことが自己免疫異常によるという根拠の1つになっています。PBCと同じ免疫性肝疾患である自己免疫性肝炎では、副腎皮質ステロイドホルモンが第一番の治療で、著効します。しかし、PBCでは、本剤の使用は極めて慎重に対応すべきで、中には禁忌とする報告もあります。
 この理由は、PBCでは慢性の胆汁うっ滞によってビタミンDの吸収障害が起こるために骨粗鬆症の合併が多いので、副腎皮質ステロイドホルモンを使用した場合、この骨病変が悪化する可能性が高いからです。PBCは中年以降の女性に好発し、一般に女性は閉経後に骨粗鬆症がみられることが多いので、定期チェックと早期の対策が求められます。
 ただし、自己免疫性肝炎や膠原病が合併した場合などは、骨病変の発症や進展を予防しながらステロイド剤を慎重に投与することもあります。

Q11 痒みの原因と治療
PBCの多くの方は、何らの自覚症状はありませんが、症状には、痒みや倦怠感があげられます。痒みは乳幼児から老人まで年齢や男女問わずみられるものですが、PBCの痒みは一般に進展した人にみられ、アトピー皮膚炎や蕁麻疹のように皮膚に明らかな発疹や色調の変化はみられません。背中などが四六時中痒く、夜間の睡眠を邪魔することもあります。
痒みの真の原因の詳細はいまだ不明ですが、痒みは、末梢性と中枢性に大別されています。
末梢性の痒みは、ヒスタミンがその主役を担い、中枢性の痒みは、各種オピオイドが関与することが分かってきました。アトピー皮膚炎の痒みは末梢性の代表的なものですが、抗ヒスタミン剤のみで完全には制御できないことから、中枢性の痒みも関連すると考えられています。PBCの痒みに対しては、抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤で治療を始めることが多いですが、なかなか制御できないことから、中枢性の関与も濃厚です。最近、オピオイドの中の、k-アゴニストがPBCを含めた肝疾患による痒みに有効であると報告され、日本発の新規薬剤も保険薬として承認され、注目されています。

Q12 予後
PBCの予後は全般的に良好であり、UDCA治療に反応し肝機能が安定すれば生命予後は一般人とほぼ同等です。しかし、UDCA治療に反応せず血清ALP値が低下しない例は他の治療が必要となり、さらに総ビリルビンが上昇し黄疸が出現すると進行性で予後不良です。

Q13 肝移植について
PBC患者さんの多くは症状なく経過しますが、一部の方では、肝機能検査が改善せず、肝組織の線維化が進行し、肝硬変へ進展したため、黄疸、腹水、出血傾向や食道・胃静脈瘤からの出血などの症状が出現します。そうなると、内科治療には限界があり、様々な条件の下で、肝移植を検討することがあります。肝移植には脳死肝移植と生体肝移植がありますが、主な条件としては、他の臓器に重篤な障害がないこと、肝不全の症状が進んでおり、他の治療法では救命が困難であること、アルコールや薬物などの依存症がないこと、本人や家族に十分な理解があること、などがあげられます。概ね20際以上60歳までを原則にしています。
最近は肝移植の指定病院は全国27施設で、最近は、移植コーデイネーターの方が様々な疑問や問題に相談、対応していただけるので、大きな力になっています。

Q14 日常生活での注意点は?
ほとんど症状がなく、血液検査だけに異常がみられるという無症候性PBCの方は、日常生活の中で特別の注意は必要ありません。安静にする必要はありませんし、仕事も通常通りできます。ただし、自覚症状がないので、服薬を自己中断したり、指示通り服用しないことや、過度の飲酒は厳に慎まなければいけません。自覚症状の変化に注意を払う必要があります。
病気が進行して肝硬変の状態に至ってしまった場合には、食事や運動など日常生活の中できめ細かい注意が必要になります。

Q15 難病指定について
平成27年1月から法律によって難病対策が規定されました。PBCもこの難病の1つに指定されていますが、疾患の患者さんすべてが医療費助成を受けられるわけではありません。各疾患それぞれに「重症度分類」が定められており、この重症度分類によって中等症・重症と診断された患者さんのみが医療費助成を受けられ、軽症と診断された患者さんは、原則として医療費助成の対象にはなりません。 PBCでは、血液検査で異常を示す以外、痒みや倦怠感、黄疸などの自覚症状がない場合には、対象にはなりません。
医療費助成の内容については、医療保険の種類などによっても異なりますので、各医療機関や保健所などでよく説明を受けてください。

Q16 患者さん向けの参考になるサイトは?
患者さん向けのサイトを以下に記載しておきます。
難病情報センター 原発性胆汁性胆管炎(指定難病93)
PBC ガイドライン2017