肝臓疾患解説(3)自己免疫性肝炎

自己免疫性肝炎とは?
 自己免疫性肝炎(Autoimmune hepatitis:AIH)は中年以降の女性に好発し、その発症進展には自己免疫機序が関与すると想定されています。臨床的には、抗核抗体などの自己抗体陽性、血清IgG が高値を示します。発症には急性、慢性のいずれも存在しますが、無症候性で何らかの機会の血液検査でAST、ALTの上昇により発見されることもあります。多くの症例では、副腎皮質ステロイド剤(PSL)が極めて良く奏効します。

診断と検査
 診断には、(1)抗核抗体,抗平滑筋抗体などの自己抗体陽性、(2)血清IgG高値を高率に伴います。肝炎ウイルスを含むウイルス感染、薬物性肝障害、非アルコール性脂肪肝炎など既知の肝障害の原因を除外することが重要です。抗核抗体陰性または低力価例では肝腎マイクロゾーム-1(LKM-1)抗体を測定します。検出される自己抗体の種類によって、抗核抗体、抗平滑筋抗体が陽性をI型AIH、LKM-1抗体陽性をII型AIHに分類しています。II型AIHは小児例でI型より活動性が高く、とくに劇症肝炎への進展率が高いです。I型AIHのうち、LE細胞現象陽性例をとくにルポイド肝炎と呼びます。急性発症の場合には、(1)、(2)の特徴を示さず急激に進展、肝不全へと進行する場合があります。

 組織学的には、典型例では慢性肝炎像を呈し、門脈域の線維性拡大、同部への単核球浸潤を認め、形質細胞浸潤が多いことが特徴です。肝細胞の多数の巣状壊死,帯状,架橋形成性肝壊死もしばしばみられます。初診時既に肝硬変へ進展している症例もあります。

 最近、本疾患の認識が高まり、無症候例や軽症例が増加しています。しかしながら、本疾患のプロトタイプはMackayが報告したように、若年女性で肝炎の活動性が高く、治療が遅延すると早期に肝硬変へと進展する病態であることを念頭に置く必要があります。また、AST、ALTが低値例であっても、肝組織像で巣状壊死、帯状壊死、架橋形成性肝壊死を認める例は軽症例とはいえないので、厳重な観察が必要です。

 診断には改訂版国際診断スコアが有用で、PSL投与の可否については簡易型スコアが参考になります。スコアリングシステムはあくまで診断の補助手段であることを忘れず、点数にこだわりすぎずに個々の症例の病態を十分に吟味して診断することが肝要で、診断に難渋する症例は組織所見の評価も含めて早期に専門施設にコンサルトすることが望ましいです。

治療の一般方針
 1. 治療方針の立て方
自他覚所見、血液検査、病理像、画像などから診断を確定、重症度の判定を行い、PSL治療を基本とします。初期反応によって漸減し、維持量を長期投与します。
 2. 治療の実際
典型例では通常PSL 1日30-40mgを初期量とし漸減していきます。通常は1日5-10mgを長期の維持量とします。AST、ALTの速やかな改善、IgG値の低下がみられます。欧州ではPSLの副作用軽減の目的で、アザチオプリン(AZP)50mg併用が汎用されています。
劇症化例では、人工肝補助療法などに加えてパルス療法(PSL 1g点滴)をできるだけ早期に開始します。小児例では低身長を回避するため、PSLの生涯投与量を考慮して初期にパルス療法を行い早期の漸減を目指します。急性期のAIHで自己抗体陰性でIgGも基準値内の例では、肝組織所見を重視して治療を決めます。原発性胆汁性肝硬変とのオーバーラップ例でもPSL投与が推奨されます。
なお、軽症例ではウルソデオキシコール酸(UDCA)単独で対応します。

疾患への理解
 原因は不明ですが自己免疫異常に基づく疾患で、重症度、治療方針や予後についての理解が必要です。とくに本疾患は適切なPSL投与によって予後の著しい改善が望めることから、継続治療の必要性があります。治療を受けたAIHの10年生存率は90%以上で、10年後での肝硬変への進展は20%以下です。一方、PSLの副作用についても理解が必要です。とくに肥満、糖尿病、消化性潰瘍、骨粗しょう症などの把握が必要です。

 患者の大半が女性で、個人差はあるもののPSL服用によって満月様顔貌を気に病むことが多いです。この場合も治療の意義を明確に理解してもらう必要があります。欧米では比較的安易にAZPを併用することでPSL服用量を軽減しています。PSL長期服用では一般に易感染性となることから、インフルエンザや肺炎双球菌などの予防ワクチンも適宜推奨します。

※本文は、院長が著した「内科」113巻6号、2014 内科疾患 最新の治療「自己免疫性肝炎」に掲載されたものを一部改編して作成しました。