院長の趣味の部屋 ラテン語とエピソード (6)

 目次
1〜25 | 26〜50 | 51〜75 | 76〜100 | 101〜125 | 126〜

126. デザイン NEW
127. スマイル NEW
128. リレーとアンカー NEW
129. レシピ NEW
130. フォーカス NEW

126. デザイン


「デザイン」(英: design)という言葉を聞くと、装飾や服装などの仕事が直ちに連想されますが、この語源はデッサン (dessin) と同じく、“計画を記号に表す”という意味のラテン語 designare です。デザインとは、「美しさ」や「使いやすさ」などの狙いを実現するために創意工夫すること、および、その創意工夫の成果を反映させた見た目や機能のあり方のことです。多くの場合「図案」「模様」「設計」「造形」「構想」などと訳されて、単に表面を飾り立てることによって美しくみせる行為と解されるような社会的風潮もありましたが、最近では語源の意味が広く理解・認識されつつあります。つまり、形態に現れないものを対象にその計画、行動指針を探ることも含まれ、就職に関するキャリアデザイン、工業製品に関するインダストリアルデザイン等がこれに当たります。

「キャリアデザイン」とは、将来のなりたい姿やありたい自分を実現するために、自分の職業人生を主体的に設計し、実現していくことです。これが注目される背景には、バブル崩壊後に終身雇用や年功序列などの日本的雇用慣行が変わって、成果主義や中途人材の登用が一般的になってきたことにあります。キャリア形成やライフスタイルを会社に委ねるのではなく、自分で実現する「自律型人材」が求められます。

「インダストリアルデザイン」とは、産業分野における「工業製品の設計」を意味します。インダストリアルデザインは、最先端のトレンドを意識した外観の中に、最新技術を無理なく盛り込み、使い勝手・堅牢性・製造コストなどの兼ね合いも考慮して、製品の全体像を設計する技能が求められます。

 さて、医学に限らず、「研究」の分野でも、「デザイン」の語が使用されます。研究デザインは、介入研究、観察研究、データ統合型研究の3つに大きく分類されます。それぞれはさらに細分化されますが、ここでは省略します。様々な研究デザインの中から求められるエビデンスレベルに応じて、適切な研究デザインを選び研究を進める必要があります。英文論文では、Author Contribution statementとして、各著者がこの論文作成に何を貢献したかを記載するパートがあり、designed the experimentsなどと記載されています。

出典
デザインとは何? わかりやすく解説 Weblio辞書


127. スマイル


 1936年 (昭和11年) のアメリカ映画に、チャールズ・チャップリンが監督・製作・脚本・作曲を担当した喜劇映画「モダン・タイムス」があります。資本主義社会や機械文明を題材に取った作品で、労働者の個人の尊厳が失われ、機械の一部分のようになっている世の中を笑いで表現しています。自動給食マシーンの実験台にされるシーンや、チャップリンが歯車に巻き込まれるシーン、ラストのチャップリンとヒロインが手をつないで道を歩いてゆくシーンなどが有名です。このラストシーンには、自身の作曲による印象的な音楽が流れますが、その題名は「スマイル」でした。

 本作はルネ・クレール監督作品『自由を我等に』と内容(ベルトコンベアが走る流れ作業、それから起こるドタバタ騒ぎ、ラストの野原の直線道路を行く構図など)が酷似していました。(1937年)そのため『自由を我等に』のドイツの製作会社・トビス社はチャップリンを著作権侵害で告訴しようとしたそうです。しかし、証人に立ったルネ・クレールは、「もし『モダン・タイムス』が自分の映画からヒントを得ているならば、光栄に思う。」と証言したため、告訴は取り下げられたそうです。しかし、第二次世界大戦後1947年にトビス社は再び訴えを起こし、それを鬱陶しく思ったチャップリンサイドは、僅かばかりの支払いをしました。ドイツの映画会社トビスによる(二度目の)訴えについて、チャップリンサイドは反ナチス・ドイツ映画『独裁者』への報復であろうと確信しています。

 本作品は資本主義を批判していることから、作品を「共産主義的である」と非難した評論家もいたようです。そのため当時ファシズム政権にあったドイツなどの国家では、作品が共産主義的であるとみなして、上映禁止されていました。

「笑顔」は英語で smile(スマイル)ですが、同じ語源を持つと考えられるラテン語に Mirus(ミルス)という語があります。 古来、神秘的な道具として扱われてきた「鏡」を表す言葉で、「不思議なくらい素晴らしい」という意味です。 この語から、「Miracle (奇跡)」が派生しています。

 一方、笑顔になれない場面は、当然、ピンチの時で、「ピンチ」は危機で、英語ではクライシス(crisis)です。クライシスの語源はギリシャ語でカイロスで、とくに、経済上の危機や恐慌などを表す言葉として使われます。ただ、クライシスの意味は全てが悪い状態ではなく、良い方向に向かう出発点というニュアンスも含まれていて、その語源はラテン語の「決定、転機」という意味です。そのため、「分かれ道」や「重大局面」などの意味にもなる言葉です。

 つまり、クライシスにはピンチとチャンスという2つの意味が含まれています。チャップリンの作品群は、戦争や政治に翻弄され、いわば、「スマイルとクライシス」という言葉に象徴されるように数奇な運命にも遭遇されました。しかしながら、作品群の評価は絶大な人気を有しており、「モダン・タイムス」で使用された楽曲「スマイル」も、マイケル・ジャクソンなど多くの有名アーティストにカバーされ、スタンダードとなっています。

出典
モダン・タイムス (Wikipedia)


128. リレーとアンカー


 学校などの運動会の最終競技は、足の速い選手を選抜したバトンリレー走で、この結果によって優勝が決まる花形競技です。リレーとは、受け継いで次々に渡していくことを意味し、陸上競技のみならず、水泳・スキー・スケートなどでも、数人の選手が一定の距離を受け持ち、次の選手にバトンや襷を受け継ぎながら競う競技です。

 リレーは、英語 relay からの外来語で、relay の re は「後ろに」、lay は「残す」で、「後ろに残す」という意味のラテン語が、フランス語経由で15世紀に英語化されたそうです。この語源となるラテン語から派生した言葉には、現代フランス語で relayer(引き継ぐ・駅馬を継ぎ代える) や、relais(駅馬車や猟で疲れた馬や犬に代えるべき馬や犬)があります。

 さて、最終走者のことをアンカーと呼びます。英語では anchor と書きます。この「anchor」は、日本語で「錨(いかり)」を意味します。錨とは、船が流れないよう停めておくときに沈める、鉄の重りのことです。リレーの走者と錨は、一見、無関係と思われますがーーー。この由来をみていきます。

 「アンカー」という言葉が使われるようになったのは、20世紀初頭に「綱引き」がオリンピックの正式種目だった頃です。綱引きでは、最後尾で引っぱる選手が最も重要とされていましたので、最後尾は、屈強な体格で、体重がどっしり重い選手が務めていたのです(図参照)。つまり、体重が重くて力持ち、まさに船の錨のような存在です。さらに、ヤマト運輸でお馴染みの錨のマークは、古くからヨーロッパなどで「希望と信頼の象徴」として大切にされてきました。

 このことから、最後尾の選手はアンカーと呼ばれるようになり、やがてリレー種目の最終走者にも、アンカーと使われるようになったそうです。

 綱引き競技は、1900年パリオリンピックから、1920年アントワープオリンピックまでの5大会で行われ、夏季オリンピックの人気競技だったそうです。その後オリンピック種目には国際的な統括組織が必要となり、組織を持たなかった綱引きは、残念ながら姿を消すことになったようです。

出典
オリンピックの綱引競技 (Wikipedia)


129. レシピ


 日本最大の料理レシピサービスの「クックパッド」は、376万品を超えるレシピ、作り方を検索できます。家庭の主婦の作った簡単実用レシピが多く、利用者は5500万人といわれています。レシピ(recipe)とは、何かを準備する手順書で、特に料理の調理法を記述した文書で、通常の構成は、1)料理の名前(場合により、地方または由来)2)調理に必要とする時間 3)必要とする食材と、その量または分量 4)必要とする調理器具や道具 5)調理する順番にそった手順一覧 6)レシピで出来上がる料理が何人前か、さらにレシピには、保存期間と冷凍可能かを示すものもあります。

 レシピ(recipe)は「(命令を)受け取る」を意味するラテン語 recipere の(二人称単数現在能動)命令形 recipe に由来します。これは元々、医師から薬剤師への、材料の準備ができるよう指示(処方箋)を命ずる語でした。その後1740年頃から料理用語として使われ始め、現在では料理用語として広く一般に認知されています。現在、処方箋、レセプトの表記の略語(Rp)に名残りがあります。

 レシピの歴史をみますと、知られている最古のレシピは紀元前約1600年の南バビロニアでのアッカド語の粘土板で、古代エジプトの象形文字で料理の調理が描かれているそうです。 また、古代ギリシャのレシピが多く知られていて、ミタイコスの料理本が最古ですが、大部分が失われています。ローマのレシピは紀元前2世紀にカトー・ケンソリウスの『農業論』で始まったとされています。この時代に、地中海東の料理の多くがギリシャ語とラテン語で記述されています。古代カルタゴのレシピの幾つかも、ギリシャ語とラテン語に翻訳され知られています。より後の西暦4世紀または5世紀に、『アピキウス』と呼ばれる膨大なレシピ集が現れ、完全に現存する最古の料理本とされています。『アピキウス』は、通常参照されるコースを、前菜(Gustatio )、メインコース(Primae Mensae )、デザート(Secundae Mensae )と参照されるコースを記録しています。ローマ人は西洋料理にハーブと香辛料を導入した。レンフリューは、タイム、ゲッケイジュ、バジリコ、フェンネル、ルー、ミント、パセリ、イノンドが、ギリシャで一般的であったと記述しているそうです。

 一方、東洋でも、古代中国の現存するレシピ集としては、北魏の賈思キョウ『斉民要術』、北宋の呉氏『中饋録』、南宋の林洪『山家清供』、元の著者不明『居家必要事類全書』、清の袁枚『随園食単』などがあります。中国のレシピ集は、農書や日用類書(生活情報の百科事典)と重なる部分が大きいとされています。

 わが国の江戸時代には『料理物語』や『本朝食鑑』が刊行されました。1802年、救荒のための『かてもの』が刊行され、1872年、『豆腐百珍』が刊行され、ブームとなって多くの続編や類似書が出現したそうです。明治時代には、村井弦斎による新聞連載小説の『食道楽』がベストセラーとなり、その妻の村井多嘉子がレシピ本の走りとされる『弦齋夫人の料理談』を出版しました。石川理紀之助は貧農救済を目的として、『草木谷庵の手なべ』を著しました。帝国陸軍では『軍隊調理法』が部隊に配られたといいます。

 さて、レシピには、いわゆる著作権は発生するのでしょうか?レシピには著作権は発生しません。レシピはアイディアであると見なされ、「思想又は感情を創作的に表現したもの」という著作物の要件を満たさないからです。したがって、創作の余地のない材料の列記や調理手順などをレシピの考案者の許諾なく転載することや、他者の考案したレシピにアレンジを加えて公開することは、道義的な問題はともかく、著作権の上では問題ないようです。ただし、材料の列記順に考案者の創作意図がある場合や、レシピの文章に考案者の創作性が含まれる場合は、著作権が発生します。そのため、料理本やレシピを紹介するウェブサイトも著作権を有します。飲食店が別の業者にレシピを開発してもらった場合は、契約内容を確認する必要があります。

 レシピの考案者が自身のレシピを守る方法として、特許を取得することが考えられます。特許が認められたケースとして、焼き栗の作り方、レストランによる「ソースの作り方」、紀文食品による「半熟卵を内包する玉子豆腐」(失効済み)などがあります。ただし、特許の効力が及ぶのは事業として行う場合に限られ、個人が家庭で特許に沿ったレシピで調理する分には全く問題はありません。反対に、特許を取得することで使用する食材や調理方法が公開されてしまうなど弊害も想定されます。このため、ザ コカ・コーラ カンパニーはコカ・コーラの原液のレシピに関して特許を出願していないとのことです。

出典
レシピ (Wikipedia)


130. フォーカス


「フォーカス」の語源・由来は、ラテン語の focus とされています。 これは、本来「健康」や「暖炉」を意味する言葉ですが、炎が暖炉の中心にあることから、「焦点」「集中点」という意味を持つようになったとされています。

 フォーカスの意味は、カタカナ語ではほぼ「焦点」の意味で使います。カメラ機能でよく聞く「オートフォーカス」は、「自動で焦点を合わせる」という意味です。「ピント」という言葉も用いられますが、こちらはオランダ語の「brandpunt」で、フォーカスとほぼ同じ意味です。英語では使いませんが、日本では「ピント」がよく使われています。 「ピンボケ」や「ピントを合わせる」とよく言います。したがって、機能のことをフォーカス、焦点を合わせることをピントと言うことが多いようです。

 競馬での「フォーカス(forecast)」とは、「着順を当てる馬券(馬連など)」のことを表します。

出典
レンズを通る光 ■わかりやすい高校物理の部屋■